AMSBのエネルギーバランス

THORIMS-NESとは、核燃料であるU233生産設備としてのAMSBと、エネルギー発生装置としての熔融塩原子炉MSRを分離するという概念である。

THORIMS-NES: THORIum Molten-Salt Nuclear Energy Synegetic system :トリウム熔融塩 核エネルギー協働システム)

AMSB: Accelerator Molten-Salt Breeding Facility:加速器熔融塩増殖施設)

元々、加速器を用いて核燃料を製造するアイデアは、カナダの科学者W.B.Lewisが提唱し[Ref.1]、後にカナダのA. A., Harms教授らがTHORIMS-NESの基本アイデアを著書で示した。
[Ref.2,古川和男翻訳あり]。

その基本となる値が「1個の陽子で何個の中性子が出るか?」である。生成した中性子の数だけ、ThをU233に変換できるので、AMSBの最重要データである。これを計算し、AMSBの成立性を示したのが古川論文である[Ref.3]。
下表のように、ThやUの濃度が大きいと多少大きくなり、ThよりUは若干大きいことが分かる。また「15MeV以下に減速した中性子による高速核分裂効果等により、中性子発生数は35-45個になるはず」と推測している。



筆者は10年ほど前に古川和男先生より一度講義を受けたが、AMSB(ADS)のエネルギーバランスについて、以下に再検討した。

1.AMSBによるU233生産量の再確認

古川論文では、1GeV・300mAのAMSB(ADS)によるU233生産量を年間800kg程度としていた。この値が正しいかを最近の論文[Ref.4] を基に確認した。
放出中性子数は1GeVで飽和しているので、入射陽子エネルギーは1GeVで十分である。
なお、JAEAのJ−PARCは最終段50GeVまで可能であり、エネルギー値としては十分すぎるが、電流値は2桁位足りない。


 2件の論文データを併せると、次図のように、発生中性子数は密度の関数のように見える。しかし、文献4は、15MeV以下に減速した中性子による高速核分裂効果を含んでいて、大きい値となっているのかも知れない。但し、Thでは高速核分裂効果が小さいので、曲線は飽和しているように見える。これらのデータを基に、Thでは1個の陽子から36個の中性子が生成されると仮定できそうである。


 1GeV・300mA(0.3A)のAMSBを仮定し、Thから生成したU233は即座に分離されるとする。
電子(または陽子)1個の電荷は、1.6x10-19クーロンなので、1AのAMSBなら、1秒間に、その逆数、つまり、6.2x10+18個の陽子がターゲット(Th熔融塩)に流入したことになる。0.3Aなら、その3/10になる。
(注:1Aの電流が1秒間に運ぶ 電気量が1クーロン)

1個の1GeV陽子がThに当たると、スポレーション反応(核破砕反応)で、36個の中性子が出て、これがThに吸収されて、36個のThがU233に変換される。


一方、1モル(=233g)のU233はアボガドロ数(6.0x10+23)個の原子を含んでいる。つまり、U233原子1個の重さは233/(6.0x10+23)=39x10-23 gである。

以上から、毎秒、0.3A x 6.2x10+18 x 36個 x 39x10-23 g  = 0.026g、のU233が生産される。

即ち、AMSBの稼働率を100%とすれば、
  0.026g x60x60x24x365=820kg

即ち、年間820kgのU233が生産される。

 なお、実際のAMSBでは、生成したU233がターゲット熔融塩にある程度残留し、核分裂反応で増殖する。ターゲット熔融塩の増殖比は1.1〜1.2程度と推定されるので、U233生産量は上記値より1〜2割程度大きくなるが、一方、AMSBの稼働率は8〜9割程度と推察されるので、これと相殺し、結局、年間800kg程度のU233生産量となり、40年前の古川論文が正しいことを確認できた。


[Ref.1] W.B. Lewis “The Significance of the Yield of Neutrons from Heavy Elements excited to High Energies”. AECL-968, 1952
[Ref.2] A.A. Harms, et.al, “Nuclear Energy Synergetics - An Introduction to Conceptual Models of Integrated Nuclear Energy Systems”. Plenum Press, 1982 (古川和男訳「核エネルギー協働システム概論」1986年)
[Ref.3] K. Furukawa, et. al, “Single-Fluid-Type Accelerator Molten-Salt Breeder Concept”, Journal of Nuclear Science and Technology, Vol.18, Issue 1, p.79, 1981
[Ref.4] P. A. L. Reis, et al, “Neutron Production Evaluation from a ADS Target Utilizing the MCNPX 2.6.0 code” Brazilian Journal of Physics, Vol.40, No.4, 2010



2.エネルギーバランスについて

2.1)AMSBでは発電しない場合(U233を即座に分離する場合)

 1GeV・300mAのAMSBは、300MWeの電力と等価であり、AMSB(加速器)の効率を30% [Ref.5]とすれば1GWeの電力源を必要とする。つまり、1GWe の発電所で、年間800kgのU233を生産していることになり、それだけで見ると、エネルギー回収効率は高くないように見える。

 例えば、1GeVの陽子から36個のU233が生成され、これが核分裂すると、7.2GeVの熱エネルギーが発生する(200MeV/fission x 36)。U233を軽水炉で使用する場合を考えると、発電効率は33%なので、2.4GeVの電気エネルギーが得られる。この値はAMSB電源(3.3GeV)にも満たない電力であり、これではエネルギーバランス上、無意味なシステムである。



 しかし、熔融塩炉(MSR)の転換率は約1なので、起動用のU233があれば、その後は、ほぼU233補給なしで原子炉寿命まで発電できる。また、原子炉寿命後のU233は、次のMSRに使用できる。
但し、最初の数年間は、加速器の電力を外部から投入する必要がある。従って長期的に考えると、AMSBとMSRの組み合わせは、エネルギーバランスとしては非常に優れている。

 なお、年間800KgのU233を生産するのに必要な1Gwe電源の電力コストは、1KWh=6〜10円として、年間約500〜900億円になり、MSRのコストを大幅に悪化させる。文献[Ref.6]によれば、20万KweのFUJI-U3起動に必要なU233量は1.1トンで、電力コストだけで700-1300億円になり、プラント建設費よりも大幅に高くなる。従って、古川和男が提唱したように、AMSBで核分裂からの熱エネルギーを回収するのが適切である(次節のAMSB図参照)。



[Ref.5] 辻本和文「核変換実験施設について」2012年
[Ref.6] 三田地紘史他、「自給自足型トリウム熔融塩炉の特性」日本原子力学会誌,Vol.7,No.2,p127、2008

2.2)AMSBで発電もする場合

 AMSBのターゲット熔融塩の実効増倍率Keffを0.67と保守的に低く設計したとする。中性子増倍効果(=Keff/(1-Keff)は2倍となる。増加した分の中性子はThからU233を生成し、核分裂でエネルギーを発生する。従って、下記例のように、U233生産量は殆ど増えないが、エネルギーは発生する。(厳密には前述のように、増殖で1〜2割程度、増える)


例:1個の陽子からスポレーション反応で36個の中性子が発生する。Keff=0.67なら約72個になる。この内、36個の中性子は、前述のように、Thに吸収されて、36個のU233原子を生成する。従って生産されるU233量は、AMSBによる当初の生産量とほぼ同じで、年間800kgである。

 残り36個の中性子はU233に吸収されて核分裂エネルギーを発生する。
なお、1個のU233が核分裂して1個のU233が無くなると、2〜3個の中性子を発生する。その内、1個の中性子は連鎖反応の維持に使われ、残り1個はThに吸収されてU233を生成する。従って、無くなった1個のU233は常に補充される。


 U233核分裂による発生エネルギーを以下に計算する。
1GeV・300mA(300MWe)のAMSBからは毎秒0.3x6.2x10+18個の陽子がターゲットに流入し、36倍の中性子が核分裂し、200MeVの核分裂エネルギーを発生する。従って、1MeV=1.6x10-13J 、1W=1J/secを用いると、

36個x0.3Ax6.2x10+18x200MeVx1.6x10-13x1.0-6=2140MWt

発電熱効率44%とすれば940MWe、つまり、AMSBから約1GWeの電力を回収できるので、この回収電力でほぼAMSB電源を賄えることになる。




 上図は、Keff=0.67のAMSBの例だが、最初にU233が蓄積して、Keff=0.67に達するまでの間は発電できない。どの程度のU233蓄積量があればKeff=0,67に達するかは核計算が必要だが、AMSBが1年間、1Gweの発電をするには、約800kgのU233が必要である
(2140MWt x 365d x 1g/MWd ÷1000 = 780kg)。

 従って、運転初期に、その2倍つまり1.6トンもあれば十分であろう。即ち、2年程度は、電力を外部から購入しなければならないが、その後はAMSBがエネルギー自給するため、長期間で考えると、システム全体の発生電力は非常に大きくなる(次図)。



なお、前頁の図には、スポレーション反応から回収される発熱の寄与は入っていない。下記文献[Ref.7]によれば「スポレーション反応で、入射エネルギーの6割がターゲットの発熱となる」とある。即ち、上記システム全体で考えると、1GeV・300mAの加速器は300MWtのエネルギーを注入していることになり、その6割つまり約180MWtが回収されることになる。この値は、核分裂による発熱(2140MWt)の約8%であり、上記エネルギーバランスに若干は貢献する。

 その他、下記文献によれば、スポレーションで発生する中性子エネルギーは平均25MeVで、またPbやBiターゲットに発生する中性子数は約25個なので、発生中性子の総エネルギーは下記の通りである。

 25個x0.3Ax6.2x10+18x25MeVx1.6x10-13x1.0-6=180MWt

即ち、入射エネルギーの6割に相当する180MWtのエネルギーがターゲットでの発熱になったことになり、上記の評価とも一致する。


 所で、残りの4割の入射エネルギーは、中性子1個当たりだと約16MeVとなるが、陽子や中性子の結合エネルギーは約8MeVとされており、これより大きいエネルギーが中性子や陽子を原子核から分離するのに使われたと理解される。

[Ref.7] R. Pynn, “Neutron Scattering Instrumentation & Facilities”, NCNR/NSF Summer School material, 2012

AMSBの概念図


2.3)AMSBで発電を重点にする場合(エネルギー・アンプリファイアー)

 所で、Keffをもっと高い値で設計すれば、核分裂による発熱は更に大きくなり、スポレーション反応による寄与は無視できる。逆に言えば、加速器に要した動力も無視できるオーダーとなり、ノーベル賞学者カルロ・ルビアの提案したエネルギー・アンプリファイアー(エネルギー増倍器)の概念となる[Ref.8]。

 前記2.2の場合だと、加速器の電源E1=1GWeに対して、得られた電力E2も約1GWeなので、エネルギー増倍率G=E2/E1=1/1=1、となる。

 ここで、ルビアの提案のように、1GeV・10mA(10MWe相当)という小さな加速器を想定する。更に、臨界に近いような高い実効増倍率(Keff=0.98)を採用すれば、中性子数は約50倍(=1/(1-0.98))となる。発生した中性子のうち半数はThに吸収され、残りの半数が核分裂する。前記2.2の計算式により、発熱量は

、0.5X36x50x0.01x6.2x10+18x200x1.6x10-13=1786MWt

となり、発電熱効率44%とすればE2=786MWe、つまり、加速器用電源E1=33MWeを差し引いても、750MWeの電力を売電できることになる。また、エネルギー増倍率G=E2/E1=786/33=24である(★)。



(★)上の計算を数式で一般化すると、下式になり、下図のように1/(1-x)の曲線となる。

E2=0.5*36xKeff/(1-Keff)xAx6.2x10+18x200MeVx1.6x10-13xη2
E1=Ax1000/η1
G=E2/E1

ここでη1は加速器効率、η2は発電効率、Aはビーム電流(アンペア単位)である。
但し、
Gの計算において、Aは分母と分子に出てくるので、相殺される。

下図は加速器効率η1=0.3、発電効率η20.44、ビーム電流A=10mA、の場合である。

Keff

G

0.67

1.0

0.80

1.9

0.90

4.2

0.93

6.3

0.95

9.0

0.97

15.2

0.98

23.1

0.99

46.7


 所で、上記概念で忘れていることが一つある。それは「エネルギーは増倍しているが、核燃料は増倍していない」ということである。
臨界に近づけて中性子が増えても、この体系の転換率はほぼ1.0なので、核燃料増殖速度が速くなる訳ではない。即ち、ルビアの提案のように、Keff=0.98という高い実効増倍率で、年間1786MWtの核分裂を起こすには、650kgのU233が必要である(前述のAMSB計算例のように、運転初期にはこの2倍の1.3トン程度は必要であろう)。一方、300mA加速器で製造できるのは年間800kgだったので、10mA加速器では年間27kgしか製造出来ない。この結果、U233を1.3トン蓄積するのに約50年もかかることになる(1300/27=48y)。

 さて、前頁の増倍効果の計算値を、先行論文の結果(下記の枠内翻訳文)と比較した[Ref.9]。

1GeV陽子を鉛ターゲットに入射すると30個のスポレーション中性子が発生する。Keff=0.98という高い増倍率ではU233の増倍効果により、約半分の中性子は核分裂し、残り半分は増殖に使われる。また、核分裂では200MeVのエネルギーを発生する。従って、10mA・1GeV の陽子ビームの10MW電力は、30MWの核分裂エネルギーを発生し、Keff=0.98なので、50倍の1500MWの熱エネルギーとなり、発電熱効率を0.45とすれば、675MWの電力を生み出す。(エネルギー増倍率G=675/33=20)

上記論文は鉛ターゲットとしているため、スポレーション発生中性子数がやや小さいことを勘案すると、本メモの結果は、上記論文とほぼ一致していると言える。


 その他に、日本のJAEAが計画しているADSによる核変換システムの資料を調べてみた[Ref.10]。これは核変換がメインで、多少、売電も想定している案であるが、加速器はAMSBより一桁小さい30MWビームとなっている。

 E2=270MWe、E1=100Mweなので、エネルギー増倍率G=E2/E1=270/100=3である。

 Keff=0.97と多少低いことと、鉛ビスマスのターゲットなのでスポレーション発生中性子数が少ないこと、発電効率を33%としていることなどの為と考えられる。

 なお、加速器設備コスト760億円、未臨界原子炉設備コストを1500億円と推定している。


 前頁の図から明らかなように、Keffが高ければエネルギー増倍率が高いことになる。ルビアの提案はKeff=0.98(エネルギー増倍率=約24)であった。また、近年のADSの中にはKeff=0.995(エネルギー増倍率=約100)とし、万一の臨界事故を想定して制御棒を有するものさえある[Ref.11]。

補記:

ADSは加速器電源を停止すれば、核分裂が停止し、安全性が高いと言われている。しかし、軽水炉で過酷事故の確率が高いのは、福島事故で明白になったように、全電源喪失(Station Black Out)による冷却機能喪失である。スクラム失敗(図のATWS)の寄与は小さい[Ref.12]。

[Ref.8] C. Rubbia et al, “Conceptual Design of a Fast Neutron Operated High Power Energy Amplifier”, CERN/AT/95-44, 1995
[Ref.9] Rajendran Raja, “Power Production and ADS”, FERMILAB-CONF-10-047-E, 2010
[Ref.10] 大井川宏之「分離変換技術の現状と展望」EEE会議資料、2012年
[Ref.11] V. Ashley, “The Accelerator-Driven Thorium Reactor Power Station”, Proceedings of the Institution of Civil Engineers, P.127-135, 2011

[Ref.12] NUREG1150「Severe Accident Risks: An Assessment for Five U.S. Nuclear Power Plants」US-NRC,1990

3.結論

 1GeV・300mAのAMSBによるU233生産量を年間800kg程度と計算した古川論文はほぼ妥当と評価された。
また、AMSBでは核燃料製造時に発電もして、電力を回収するのがコスト的に望ましいことも明確になった。

 なお、究極はKeff=1、即ち加速器を削除して臨界の原子炉にするのが最もエネルギー増倍効果が大きいことになり、起動の為の初期核分裂性物質さえあれば、エネルギー発生には原子炉(MSR)が最も効率的と言える。
更に、加速器は原子炉に比べて連続運転が極めて困難と見られており、AMSBを公共の安定的な電力源とするのは難しいという点もある。

 これらのことから、U233生産設備としてのAMSBと、エネルギー発生装置としての原子炉(MSR)を分離するというTHORIMS-NES概念が最適であることが分かる。


(2014年10月掲載)





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