熔融塩原子炉の燃料から原爆は作れないのですか?

「熔融塩原子炉では、トリウムからU233が生産されています。このU233を何かの方法で取り出せば、U235と同じく、原爆が出来るのではないか?」と考えられる方がおられるかも知れません。

この答えは「イエス・バット・ノー」なのです。
まず「イエス」ですが、原子炉の中では、U233は(U235と同じように)核分裂する訳ですから、もし、U233を固めることが出来れば原爆になります。

次に、「ノー」の説明です。
熔融塩は、原子炉と配管の中を循環しています。密封されているので、水のように汲み出す、ということは出来ません。
でも、もし、原子炉を止めて、500度以上の熔融塩を抜き出すことが出来たとします(500度以下では熔融塩は固体になってしまうので、もはや、汲み出すことは出来ません)。トリウムからU233が出来るときに、同時にU232という核種が出来ます。このU232が自然に崩壊して、幾つかの元素(正確には核種)ができ、これらは、非常に強いガンマ線を出します(例えば、タリウム208という核種は2.6MeVのガンマ線を出す)。
また、原子炉の中では、核分裂によって核分裂生成物(いわゆる死の灰)が大量に出来ており、高い放射能を持っているので、兵員は近寄って操作できないだけでなく、所在も簡単に検知できてしまいます。

抜き取った熔融塩を運び出し、再処理をして、U233だけを分離するのは、国家レベルの大事業です。

そして、U233とU232は化学分離できないので、U233を扱うのは、大きな遮蔽を必要とし、仮に原爆ができても、U232からの強い放射線で、検知されてしまいます。

ウランは、日本の中でも、原子燃料工場へ行けば、間近にウラン粉末等を見ることが出来ます(素手で触ったら、怒られますが、放射能や毒性の危険は殆どありません)。

ウラン(UO2)粉末 軽水炉用のウラン燃料ペレット(模型)直径約1cm


また、プルトニウムも、ガンマ線を殆ど出さず、(極端に言えば)素手で触ることができます。(肺に吸い込めば猛毒ですが)。私は、一度、ロシアにある(旧ソ連時代の)核兵器研究所を訪問した際に、プルトニウム粉末の入ったガラス瓶を手渡され、驚いたことがあります。このように、プルトニウムはガンマ線を出さないので、外部から検知されることはありません

更に、U235の原爆は広島で使用されましたが、爆発するのが明らかだったので、米国で一度も実験しないまま、広島で、原爆投下がなされました。

広島型(ウラン使用)原爆
右側の高濃縮度のU235を、左側のU235に打ち込んで、臨界にして核爆発を起こす仕組み。
京大HPより

一方、プルトニウムを使った原爆は、下図のように複雑な構造をしている為、米国で一度実験された後、長崎に落とされました。

長崎型(Pu使用)爆縮型原爆
外側の化学爆薬でU238を圧縮し、更に中空のPu球を中心に圧縮することにより、臨界にして核爆発を起こす仕組み。
atomicarchive.comより。


U233は、原子炉で核分裂するわけですから、何かの爆発力を持った爆弾になるのは確かです。しかし、本当にそうなのか?どの程度の威力があるのか?これが分からないと、U233原爆に脅威があるとは言えないでしょう。
下記のサイトに、米国の核実験結果が示されています。
http://nuclearweaponarchive.org/Usa/Tests/Teapot.html

1955年、米国・国防省は、14回の核実験を行なった。
その内1回は、U233とPuを混ぜた直径75cmの球形の爆縮型原爆が製造され、核爆発実験を行なった。
当初、U235とPuを混ぜて実験する予定だったが、それまでU233は一度も使用されたことがなかったので、使用可能か確認するために変更したものである。
その結果、「U235+Pu」原爆に比べ、3割、小さい破壊力(22キロトン)だった。また、U233単独の原爆実験は実施されなかったので、結局、U233自体の爆発力は不明のままである。
U233の自発核分裂はU235と同程度であり、また、高速中性子によるイータ(反応度の指標)もU235と同程度か僅かに小さい程度なので、爆発力が小さい原因は不明である。

(以上、2011年8月追記)


今、世界では、パキスタンがU235の原爆をつくり、北朝鮮がプルトニウム原爆を作りました。国家が原爆を作るなら、放射線が殆ど出ないで、かつ、威力が実証されたU235原爆、プルトニウム原爆を作るでしょう。わざわざ、検知されやすく、扱いが非常に困難で、爆発力が実証されていないU233原爆を作る意味はありません。

トリウム(U233)を使った熔融塩原子炉は、テロリストなどの集団レベルに対し、原爆製造を防衛できる障壁が非常に高い、ということと思います。

従って、U233で原爆は理論的には作れるであろう(イエス)が、誰もそんなことはしないであろう(ノー)、ということです。

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なお、熔融塩原子炉の熔融塩の中に、Pa233(プロト・アクチニウム)という元素が出来ます。上に書いたように、もし、熔融塩を抜き出すことができたとして、この熔融塩からPa233を化学分離すれば、このPa233が自然に崩壊して、純粋のU233が自然に出来てくるから、これだと、U232を含まない「良い原爆」ができるのではないか?という質問がありそうです。

FUJI原子炉の熔融塩量は50トン程度なので、原子炉停止直後に抜き取ったとして、Pa233からU233の1SQ(有意量:原爆が出来る最低限の量)=8kgを得るには、この50トンの熔融塩を抜き出すことになります。原子炉停止直後では、勿論、非常に高い放射線をだしているので、輸送トラックには何mものコンクリート遮蔽を付けないといけません。実質的に、原子炉停止直後に抜き出すことは不可能です。

それでは「少し時間がたって、放射能が低くなってから、抜き取ればいいのでは?」と思うかも知れません。しかし、Pa233の半減期が27日なので、わずか2ケ月も経つと、3/4はU233に転換してしまい、Pa233は、原子炉停止直後の1/4しか残りません。このように、Pa233だけを抜き取ることもできないのです。
(2009年2月記載)


さらに、もし、熔融塩原子炉を改造して、熔融塩を連続的に抜き出す配管を設置し、熔融塩からPa233を分離抽出する設備を付け、Pa233がU233に減衰するのを待てば、純粋のU233だけが取り出せるのではないか?ということが考えられます。
しかし、Pa233を抜き出すということは、原子炉に初期燃料としてのUやPuを投入しなければなりません。つまり、既に原爆に必要な核物質を十分に持っているということで、わざわざ、面倒なプロセスを踏む意味はありません。

また、燃料塩からPaだけを抽出する技術は開発されていません。仮にその技術が実現できたとして、U232は幾つかの核反応で生成しますが、そのうちの3つの過程ではPa232が生成します。つまり、燃料塩からPaだけを分離できても、Pa232が同伴し、半減期1日でU232になって行きます。従って、Pa233が崩壊して生成したU233と一緒になってしまう訳です。(2013/5、一文追記)

Th232 (n,2n) Th231 (β-) Pa231 (n, γ) Pa232 (β-) U232
Th232 (γ,n) Th231 (β-) Pa231 (n, γ) Pa232 (β-) U232
Th230 (n, γ) Th231 (β-) Pa231 (n, γ) Pa232 (β-) U232


現在、世界中に多くのU235濃縮設備があり、例えば、イランでのU235濃縮施設の核兵器との関連が問題になっています。さらに、世界中に大量のPuが蓄積・生産されています。これらの核拡散リスクを減らすには、トリウムサイクルが最善です。熔融塩炉では「物理的に絶対、原爆ができない」のではありませんが、世界全体での核拡散リスクを大幅に減らすことができるということです。

(2010年1月、最後の10行を追記)


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