熔融塩炉の安全設計審査指針案

原子炉を設計する際に必要となる安全設計審査指針は幾つかあり、軽水炉の場合、最上流の基本的指針が「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」である。
熔融塩炉については、海外を含め、(2020年現在)未だ提案されていないので、「熔融塩炉に関する安全設計審査指針」の案を下記に示す。
出典:「General design criteria for MSR design」、書籍「Molten Salt Reactors and Thorium Energy」(2017年)に収録。


本文書は熔融塩炉の安全設計審査指針の草案であり、まだ承認されていない。
著者は、米国のFHRに対するGDC(設計基準)案を基に、熔融塩炉に対する安全設計審査指針の案として以下を提案しているが、これらの規定案は将来改訂される。
特に、以下の条項の斜字部分は、熔融塩炉に向けて、または最近の許認可要件及びその動向に見合うよう著者が修正または追加したものである。
熔融塩炉の安全性は以下の規定に基づいて設計されなければならない。
本稿において、「しなければならない(shall)」は許認可機関による強制要件を意味し、「推奨される(should)」は許認可申請者に対する勧告及び自主的判断を促す意味を持つ。


[1] 全体的な要件

1.品質基準と記録

安全上重要な構造、系統及び機器(SSC)は、果たすべき安全機能の重要度に見合った品質基準に合わせて、設計、製造、組立、試験されなければならない。一般に認められている規格及び基準が使用される場合は、その適用性、妥当性、十分性を判断するための識別と評価を行い、要求される要求安全機能に応じた高い製品品質を確保するために必須な補足または変更を行わなければならない。これらのSSCが安全機能を十分に果たすという適切な保証を提供するために、品質保証プログラムを作成・実施しなければならない。安全上重要なSSCの設計、製造、組立、試験の適切な記録は、原子力発電ユニットの供用期間を通して、同ユニットの許認可取得者が維持し、その管理下に置かなければならない。

2.自然現象から保護するための設計基準

安全上重要なSSCは、安全機能を果たす能力を失うことなく、地震、竜巻、ハリケーン、火災、洪水、津波、静振などの自然現象の影響に耐える設計にしなければならない。これらのSSCの設計基準は、以下を反映しなければならない:(1)敷地及び周辺地域において歴史的に報告されている最も深刻な自然現象に関する、過去データが蓄積されている一定限度の精度、量、期間に対し十分な余裕を持たせた適切な考慮、(2)通常条件及び事故条件の影響と自然現象の影響との適切な組み合わせ、(3)果たすべき安全機能の重要度。
地震については、過去のデータだけでなく、将来の予測に基づく最大の地震で見積もらなければならない。津波は、これらの見積もりに基づいて評価しなければならない。

3.防火

安全上重要なSSCは、他の安全要求との整合性を確保しつつ、火災及び爆発の頻度並びにその影響を最小限に抑える設計及び配置にしなければならない。ユニット全体、特に格納容器や制御室などに可能な限り不燃・耐熱性素材を使用しなければならない。安全上重要なSSCに対する火災の悪影響を最小限に抑えるために、適切な容量及び機能を備えた火災検知・消火系統が設計され、かつ具備されなければならない。消火系統は、破裂または不適切な操作によってSSCの安全機能を著しく損なうことがないような設計にしなければならない。
原子炉で黒鉛を使用する場合、黒鉛火災に対する防護を考慮しなければならない。

4.環境影響と動的効果の設計基準

安全上重要なSSCは、通常運転、保守、試験、及び想定される事故に関連する環境条件の影響に対応かつ適合する設計にしなければならない。これらのSSCは、機器の内部故障、並びに原子力発電ユニット外の事象及び状況に起因する、飛来物、パイプホイップ、液体放出などによる動的な影響から適切に防護されなければならない。ただし、規制当局が検討・承認した解析により、配管の設計基準に整合する条件下で液体を内包する系統の配管が破裂する可能性が極めて低いことが確証された場合は、原子力発電ユニットで想定される配管破裂に関連した動的効果を設計基準から除外してもよい 。

5.構造、系統及び機器(SSC)の共有

安全上重要なSSCを原子力ユニット間で共有してはならない。ただし、1つのユニットで事故が発生しても、残りのユニットで秩序ある原子炉停止と冷却が行われるといった状態も含めSSCの共有によって安全機能が著しく損なわれないことが提示されうる場合はその限りではない。

(6-9は無し)

[2] 核分裂生成物多重障壁による防護


10.原子炉設計

原子炉の炉心並びに関連する冷却系、制御系及び保護系は、通常運転及び運転時の異常な過渡変化(AOO)の際に、所定の燃料許容設計限界を超えないことを保証するため適切な余裕を持って設計されなければならない。
上記の燃料許容設計限界は、それ以下では燃料破損が生じない限界として定められなければならない。このプロセスでは、統計的評価手法を使うことができる。
炉心は、通常運転時、AOO時及び設計基準事故(DBA)時の炉停止能力と冷却可能形状の両方を維持しなければならない


11.原子炉固有の保護特性

反応度フィードバックに寄与する原子炉炉心及び関連する系統は、あらゆる運転範囲においても、即時の固有の核的フィードバック特性の正味の効果が反応度の急激な増加を相殺するような設計にしなければならない。

12.原子炉出力振動の抑制

炉心並びに関連する冷却系、制御系及び保護系は、所定の燃料許容設計限界の超過を引き起こす可能性のある出力振動が起こりえないこと、あるいは、確実かつ容易に検出・抑制されうることを保証する設計にしなければならない。

13.計測と制御

計測系は、通常運転、異常な過渡変化及び事故状態に対し、十分な安全性を適切に保証するよう想定を包絡する範囲でプラントパラメータ及び系統状態を監視できるものとしなければならない。それには、核分裂プロセス、炉心の健全性、原子炉冷却材バウンダリ並びに格納容器及びその関連系統に影響を及ぼす可能性があるプラントパラメータ及び系統状態が含まれる。これらのプラントパラメータ及び系統状態を所定の動作範囲内に維持するための適切な制御を行う設計にしなければならない。

14. 原子炉一次冷却材バウンダリ

原子炉一次冷却材バウンダリについては、異常漏洩、急速伝播型破断、及び全体的な破裂の発生確率が極めて低くなるよう設計、製造、組立及び試験しなければならない。
また、原子炉が原子炉冷却材に接続するドレンタンクを備える場合、これらのドレンタンク及び接続配管を原子炉冷却材バウンダリとみなさなければならない。

15.原子炉一次冷却系統の設計

原子炉一次冷却系並びに関連する補助系、制御系及び保護系は、異常な過渡変化を含むいかなる通常運転中状態においても、一次冷却材バウンダリの設計条件を超えないことを保証する十分な余裕を持たせた設計にしなければならない。

16.格納容器の設計

格納容器の設計は詳細にNo.50-55で説明されているため、No.16は使用されない。

17.電力系統

要求時に安全関連のSSCを動作させるための所内電力系統及び外部電力系統が具備されなければならない。(他の系統が機能していないことを想定した場合の)各系統の原子炉安全機能は、以下を保証する十分な容量及び性能を有するものでなければならない:(1)異常な過渡変化の結果が、所定の燃料の許容設計限界と原子炉冷却材圧力バウンダリの設計条件を超えないこと、(2)想定される事故が発生した場合、炉心が冷却され、格納容器の健全性及びその他の安全関連の重要な機能が維持されること。
バッテリーを含む所内電源系及びその他の所内配電系は、安全関連のSSC機能を動作させる場合、単一故障を想定した十分な独立性、多重性及び試験可能性を備えていなければならない。
送電網から所内配電系統への電力が安全関連SSCの機能の動作に供給される場合、その電力は、運転時、想定される事故時、及び当該環境条件下において同時故障が生じる可能性を可能な限り低減するように設計・配置された、物理的に独立した2系統の回線(配線ルートや受電設備の敷設場所が別とは限らない)から供給されなければならない。個々の回線は、所定の燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材バウンダリの設計条件を超えないこと及びその他の安全関連機能が維持されることを保証するために、全ての所内交流電源及び他の所外電源系が喪失した後十分な時間にわたり使用可能な設計でなければならない。
原子力発電ユニットが発電する電源、送電網からの電源、または所内電力供給からの電源のいずれかが喪失、又は複数が同時喪失する事態に際しても、残っている供給元からの電力が喪失する確率を最小限に抑えるよう規定しれなければならない。

18.電力系統の検査及び試験

安全上重要な電力系統は、系統の連続性及び構成機器の状態を評価するために、配線、絶縁、接続、配電盤などの重要なエリア及び施設に対し、以下の項目に関して適切な定期検査及び試験を受検できる設計にしなければならない;(1)所内電源、リレー、スイッチ、バスなどの系統構成機器の操作性と性能、(2)系統全体の動作性、出来る限り設計に近い条件下での保護系の動作対象範囲の機器動作を含む系統の完全な作動シーケンス及び系統間の電力供給。

19.制御室

制御室は、通常条件下で原子力発電ユニットを安全に運転し、事故条件下でも安全な状態を維持する措置をとることができる設計でなければならない。また、事故条件下で、事故発生期間中、従事者が総実効線量当量(TEDE)5レムを超える放射線被ばくを受けることなく、制御室に接近及び滞在することができる適切な放射線防護がなされる設計でなければならない。
通常運転時及び事故条件下において制御室に接近及び滞在を可能にする適切な居住性確保策を具備しなければならない。
制御室外の適切な場所に、以下の能力を備えた装置を具備しなければならない、即ち(1)高温停止中にユニットを安全な状態に維持するために必要な計測及び制御を含む原子炉の迅速な高温停止を行うよう設計対応された能力、(2)適切な手順を使用して、その後の原子炉の低温停止を行うことができる潜在能力。
熔融塩を使用する場合は、低温停止と高温停止を定義しなければならない。


[3] 保護系及び反応度制御系

20.保護系機能

保護系は、(1)異常な過渡変化の結果が規定の燃料許容設計限界を超えないことを保証するために、反応度制御系を含む適切な系統の動作を自動的に開始させ、(2)事故状態を検知して、安全上重要な系統及び機器の動作を開始させる設計にしなければならない。

21.保護系の信頼性と試験可能性

保護系は、安全機能の性能に見合った高い機能信頼性と供用期間中の試験可能性を実現する設計にしなければならない。保護系に組み込まれる多重性と独立性は、(1)単一故障によって保護機能が失われることがなく、(2)構成機器やチャンネルのサービスが停止しても、最低限必要な多重性が失われないことを十分に保証するものでなければならない。ただし、保護系の許容可能な動作信頼性が他の方法で確証される場合はその限りではない。保護系は、発生した可能性がある故障と多重性の喪失を個別に判断するチャンネル試験を含め、原子炉運転中にその機能を定期的に試験可能な設計でなければならない。

22.保護系の独立性

保護系は、自然現象や、通常運転、保守、試験、想定される事故条件下でのチャンネル多重性に及ぼす影響が保護機能の喪失をもたらさないことを保証する設計でなければならない。また、別途定義された基準により許容可能であることが確証されなければならない。機能的、機器設計上の及び動作原理上の多様性などの設計手法は、保護機能の喪失を防止する上で実施可能な範囲内で適用されなければならない。

23.保護系の故障モード

保護系は、系統切断、駆動源喪失(電力、計装用空気など)、想定される悪環境(極端な高温や低温、火災、圧力、蒸気、水及び放射線)などの状況が発生した場合でも、安全な状態または別途定義された基準による許容可能な状態が維持されることが確証されるような設計にしなければならない。

24.保護系と制御系の分離

保護系は、制御系の機器またはチャンネルが単一故障した場合、または制御系と共用している保護系において機器またはチャンネルの単一の故障が起きた場合や取り外しを行った場合、保護系の高信頼性、多重性、独立性といった全ての要件を満たしつつ、その機能が維持されるよう制御系から分離されていなければならない。保護系と制御系との相互接続は、安全性が著しく損なわれないことを保証するため、制限されなければならない。

25.反応度制御の誤動作に対する保護系要件

保護系は、動的機器の単一故障や、(飛出しや落下ではない)制御棒の偶発的な引き抜きなどの単一誤操作といった起因事象に対して、所定の燃料許容設計制限超過が発生しないことを保証するような設計にしなければならない。

26.反応度制御の多重性及び能力

異なる設計原理による2つの独立した反応度制御系が具備されなければならない。その内の1系統は(できれば制御棒を挿入する動的手段による)制御棒を使わなければならない。また、異常な過渡変化を含む通常運転時において、単一の制御棒固着又は単一の制御棒グループの誤動作に備えた適切な余裕を持たせ、所定の燃料許容設計限界超過が起こらないよう反応度変化を確実に制御するものでなければならない。もう一つの反応度制御系は、所定の燃料の許容設計限界超過が起こらないよう計画された通常の出力変化(キセノン燃焼の影響を含む)から生じる反応度変化率を確実に制御できるものでなければならない。系統の1つは、低温条件下で炉心を未臨界状態に維持できるものでなければならない。
熔融塩を使用する場合は、低温条件を定義しなければならない。

27.複合した反応度制御系能力

反応度制御系は、想定される事故条件下で、制御棒固着想定状態に適切な余裕を持たせた上で、炉心冷却能力が維持されることを確保するために非常用炉心冷却系または残留熱除去系と連携しつつ、反応度変化を確実に制御する能力を有する設計にしなければならない。

28.反応度の制限

反応度制御系は、想定される反応度事故の影響が、(1)局部降伏限界を超える原子炉一次冷却材バウンダリ損傷、(2)炉心、その支持構造、その他の原子炉容器内部への著しい影響により炉心冷却能力を著しく損なう事態、を生じさせないように、反応度投入量と投入率に適切な制限を設ける設計にしなければならない。これらの想定される反応度事故については、(動的手段で防止されない)制御棒の引抜き、原子炉冷却材温度の変化、出力/流量の変化なども考慮しなければならない。

29.運転時の異常な過渡変化(AOO)に対する防護

保護系及び反応度制御系は、AOOが発生した場合に極めて高い確率でその安全機能が達成されることを保証するような設計にしなければならない。


[4] 流体系

30.原子炉一次冷却材バウンダリの品質

原子炉一次冷却材バウンダリを構成する機器は、実用上最高レベルの品質基準に合わせて設計、製造、組立、試験されなければならない。原子炉冷却材漏洩の発生位置を検出し、実用的なレベルで特定するための手段を具備しなければならない。

31.原子炉一次冷却材バウンダリの破壊防止

原子炉一次冷却材バウンダリは、運転時、保守時、試験時、想定される事故時の応力に対して、(1)バウンダリが脆性挙動を示すことなく、(2)急速伝播型破断の発生確率が最小限になるよう、十分な余裕を有する設計にしなければならない。設計は、使用温度、材料特性の劣化、クリープ、疲労、応力破壊及びその他の運転・保守・試験・想定される事故時のバウンダリ材料の状態に関する考慮、並びに(1)材料特性、(2)材料特性への照射効果、(3)残留・定常・過渡応力、(4)欠陥サイズを決定する際の不確実性に関する考慮を反映したものでなければならない。

32.一次冷却材バウンダリの検査

原子炉一次冷却材バウンダリを構成する機器は、(1)構造及び漏洩耐性の健全性を評価するための重要なエリア及び機能の定期的な検査と試験及び(2)原子炉容器の適切な材質監視プログラムが実施可能な設計にしなければならない。

33.原子炉一次冷却材インベントリの維持

原子炉一次冷却材バウンダリからの漏洩及びバウンダリ内の小口径配管やその他の小部品の破損による原子炉冷却材インベントリ損失の結果として所定の燃料許容設計限界超過が起こらないことを保証するために、原子炉一次冷却材バウンダリの小規模破損に対して原子炉冷却材インベントリを維持する系統が具備されなければならない。
原子炉にガードベッセルが装備されている場合、一次バウンダリ破壊後に一次冷却材インベントリが維持されていることを確認しなければならない。

34.残留熱除去系

残留熱を除去する系統が具備されなければならない。この系統の安全機能は、異常な過渡変化を含む通常運転後のすべての原子炉停止状態中において、所定の燃料許容設計限界と原子炉一次冷却バウンダリの設計条件を超過させない除熱率で、FP崩壊熱とその他の残留熱を炉心から最終ヒートシンクに移送し、かつ想定される事故時において有効な炉心冷却を継続できるものでなければならない。
単一故障を想定しても系統の安全機能を確実に実現するために、機器及び機能の適切な多重性並びに適切な相互接続、漏洩検出及び隔離機能が具備されなければならない。

35.非常用炉心冷却系

非常用炉心冷却系は熔融塩炉には適用されない。事故条件下での炉心冷却の熔融塩炉設計基準は、基準34に含まれる。

36.残留熱除去系の検査

残留熱除去系は、系統の健全性と能力を確保するために、熱交換器や配管などの重要な機器の適切な定期検査が実施可能な設計にしなければならない。

37.残留熱除去系の試験

残留熱除去系は、(1)構成機器の構造健全性、(2)系統の構成部品の動作性能、(3)系統全体の動作性及び実施可能な限り設計に近い条件下での関連系統と最終ヒートシングとのインターフェースの動作を含む系統を動作させる完全なシーケンス動作性能を確保するために、適切な定期的機能試験が実施可能な設計にしなければならない。

38.格納容器除熱系

想定される事故時において、格納容器の圧力と温度を許容範囲内に維持するために、原子炉格納容器から熱を除去する系統が具備されなければならない。
単一故障を想定した場合でも、系統の安全機能を確実に遂行させることができるよう、機器及び機能における適切な多重性並びに適切な相互接続、漏洩検出、隔離及び閉じ込め性能が具備されなければならない。

39.格納容器除熱系の検査

格納容器除熱系は、系統の健全性と能力を確保する配管など主要機器に対し適切な定期検査が実施可能な設計にしなければならない。

40.格納容器除熱系の試験

格納容器除熱系は、(1)構成部品の構造的健全性、(2)系統の構成機器の動作性能、及び(3)系統全体の動作性と、実施可能な限り設計に近い条件下での関連系統及びインターフェースの操作を含む系統を動作させる完全なシーケンス動作性能を確保するために、適切な定期的な機能試験が実施可能な設計にしなければならない。

41.格納容器雰囲気浄化系

想定される事故の発生に伴って環境に放出される核分裂生成物(FP)の濃度と特性を、他の関連系統の機能を維持しつつ、低減し、閉じ込めの健全性を確実に維持する上で、想定される事故時の格納容器雰囲気中の水素、酸素またはその他の物質の濃度を抑制する必要があるため、原子炉格納施設に放出される可能性のあるFP、水素、酸素及びその他の物質を制御するための系統が具備されなければならない。
各系統は、単一故障を想定した場合でも安全機能が確実に実現するように、構成機器及び機能に適切な多重性並びに適切な相互接続、漏洩検出、隔離及び閉じ込め性能を有するものでなければならない。

42.格納容器雰囲気浄化系の検査

格納容器雰囲気浄化系は、系統の健全性と能力を確保するために、フィルタフレーム、ダクト、配管などの主要機器の適切な定期検査が実施可能な設計にしなければならない。

43.格納容器雰囲気浄化系の試験

格納容器雰囲気浄化系は、(1)構成機器の構造健全性、(2)構成機器の動作性能、(3)系統全体の動作性及び実施可能な限り設計に近い条件下において関連系統の動作を含む系統を動作させる完全なシーケンス動作性能を確保するために、適切な定期機能試験が実施可能な設計にしなければならない。

44.構造及び機器の冷却系

残留熱除去系の除熱能力に加えて、通常運転と事故条件下でこれらのSSCの複合熱負荷を除去するために、安全上重要なSSCから最終ヒートシンクに熱を移送する系統が、具備されなければならない。
単一故障を想定した場合でも各系統の安全機能を実現するために、構成機器及び機能の適切な多重性並びに適切な相互接続、漏洩検出及び隔離性能が、具備されなければならない。

45.構造及び機器の冷却系の検査

系統の健全性と能力を確保するために、構造及び機器冷却系は、熱交換器や配管などの主要構成機器の適切な定期検査が実施可能な設計にしなければならない。

46.構造及び機器の冷却系の試験

構造及び機器の冷却系は、(1)構成機器の構造健全性、(2)系統の構成機器の動作性能、(3)系統全体の動作性及び実施可能な限り設計に近い条件下において関連系統の動作を含め原子炉停止時及び事故時において系統を動作させる完全なシーケンス動作性能を確保するために、適切な定期機能試験が実施可能な設計にしなければならない。

(47-49は無し)

[5] 原子炉格納容器

50.格納容器構造物の設計基準

出入口、貫通部、格納容器除熱系を含む原子炉格納構造物は、格納構造物と及びその内部コンパートメントが設計漏洩率を超えず、かつ十分な余裕を持たせた上で、想定される事故に起因する算定圧力及び温度の条件に対応することができる設計にしなければならない。この余裕は、(1)ピーク条件の決定に含まれない潜在的エネルギー源の影響、(2)事故現象と格納応答の算定に適用できる経験及び実験データが限定されていること、(3)計算モデルと入力パラメータの保守性についての考慮を反映するものでなければならない。

51.格納容器バウンダリの破断防止

原子炉格納構造物のバウンダリは、運転、保守、試験、想定される事故条件下で、十分な余裕を持って(1)その材料が脆性挙動を示すことなく、(2)急速伝播型破断の発生確率が最小化されることを保証するよう設計されなければならない。設計は、運転、保守、試験、想定される事故条件下での格納容器バウンダリ材料の使用温度及びその他の条件に対する考慮、並びに(1)材質特性、(2)残留、定常、及び過渡応力、(3)欠陥サイズを決定する際の不確実性に対する考慮を反映したものでなければならない。

52.格納容器漏洩率試験の能力

原子炉格納構造物及び格納容器試験状態を構成するその他の機器は、格納容器設計圧力で定期的な統合漏洩率試験が実施可能な設計としなければならない。

53.格納容器の試験と検査の要件

原子炉格納容器構造物は、(1)貫通部分など全ての重要なエリアの適切な定期的検査、(2)適切な監視計画、及び(3)弾力性シール及び拡張ベローを付帯する貫通部分の漏洩耐性に関する、格納容器設計圧力での定期的な試験が実施可能な設計としなければならない。

54.格納容器を貫通する配管系

原子炉一次格納構造を貫通する配管系は、格納容器の安全機能を実現するために必要な多重性、信頼性、性能を備え、かつこれらの配管系を介した格納容器からの放射能放出防止に関する安全上の重要度を反映した漏洩検知、隔離及び閉じ込め性能を備えた設計でなければならない。配管系は、隔離弁が必要な場合に隔離弁と関連機器の動作を定期的に試験し、弁の漏れが許容範囲内であることを判断する機能を持つ設計にしなければならない。

55.格納容器を貫通する原子炉一次冷却材バウンダリ

原子炉一次冷却材バウンダリの一部を構成し、かつ一次原子炉格納構造物を貫通する各ラインは、以下の格納容器隔離弁を具備しなければならない。ただし、計装ラインなど特定クラスの配管の格納隔離要件が他の定義に基づいて許容できることが確証できる場合は、その限りではない。

1. 1個の貫通部内側の施錠閉隔離弁と1個の貫通部外側の施錠閉隔離弁、又は、
2. 1個の貫通部内側の自動隔離弁と1個の貫通部外側の施錠閉隔離弁、又は、
3. 1個の貫通部内側の施錠閉隔離弁と1個の貫通部外側の自動隔離弁。単純な逆止弁を貫通部外側の自動隔離弁として使用不可、又は、
4. 1個の貫通部内側の自動隔離弁と1個の貫通部外側の自動隔離弁。単純な逆止弁を貫通部外側の自動隔離弁として使用不可。

貫通部外側の隔離弁は実施可能な限り格納施設近くに配置し、自動隔離弁は駆動電源が失われた場合には安全側の開閉位置になるような設計にしなければならない。
適切な安全性を確保するために、これらの配管ラインまたはそれらに接続された配管の偶発的破損の発生確率及びその結果を最小限に抑える他の適切な要求に適合しなければならない。設計、製造及び試験の品質の引き上げ、使用中検査の追加規定、より深刻な自然現象に対する防御機能、並びに追加の隔離弁及び格納容器などの要件の適切性を判断する場合には、人口密度、使用特性、敷地環境の物理特性を含めなければならない。
蒸気発生器の損傷事故などにより原子炉冷却材が格納容器の外に漏れるのを防ぐために、格納容器バウンダリを貫通する大径管用の遮断弁を装備しなければならない。

56.一次格納容器の隔離


格納容器内雰囲気に直接接続し、かつ原子炉一次格納容器構造物を貫通する各ラインは、次の格納隔離弁を具備しなければならない。ただし、計器ラインなど特定クラスの配管の格納容器隔離要件が他の定義に基づいて許容できることが確証される場合はその限りではない。
1. 1個の貫通部内側の施錠閉隔離弁と1個の貫通部外側の施錠閉隔離弁、又は、
2. 1個の貫通部内側の自動隔離弁と1個の貫通部外側の施錠閉隔離弁、又は、
3. 1個の貫通部内側の施錠閉隔離弁と1個の貫通部外側の自動隔離弁。単純な逆止弁を貫通部外側の自動隔離弁として使用不可。又は、
4. 1個の貫通部内側の自動隔離弁と1個の貫通部外側の自動隔離弁。貫通部外側の自動隔離弁に単純な逆止弁を使用不可。

貫通部外側の隔離弁は実施可能な限り格納容器近くに配置し、自動隔離弁は駆動電源が失われた場合には安全側の開閉位置になるような設計にしなければならない。

57.非開放系統の隔離弁

原子炉一次格納容器構造物を貫通し、かつ原子炉一次冷却材バウンダリの一部ではなく、格納容器雰囲気に直接接続しない各ラインは、少なくとも1個の格納容器隔離弁を具備しなければならない。ただし、隔離弁がなくかつ動的構成部品の単一故障を想定した条件下においても格納安全機能が満たされることが確証できる場合はその限りではない。隔離弁が必要な場合は、自動隔離弁もしくは施錠閉隔離弁であるか、又は遠隔手動操作が可能でなければならない。この弁は格納容器の外側の、実施可能な限り格納容器に近い箇所に配置しなければならない。単純な逆止弁を自動隔離弁として代用してはならない。

(58-59は無し)

[6] 燃料及び放射線の管理


60.放射性物質の環境への放出抑制

原子力発電所の設計には、気体及び液体廃棄物中の放射性物質の放出を適切に抑制し、異常な過渡変化を含む通常の原子炉運転時に生成される放射性固体廃棄物を処理する手段を含めなければならない。特に、そうした廃棄物を環境に放出する際に特別な運転制限が付加されるような好ましくない立地環境が想定される場合、放射性物質を内包する気体及び液体廃棄物の保持のため十分なホールドアップ容量が具備されなければならない。

61.燃料の貯蔵及び取扱い並びに放射性物質の管理

燃料の貯蔵・取扱設備、放射性廃棄物及びその他放射性物質を内包する可能性のある系統は、通常運転時及び想定される事故時の条件下で適切な安全性を保証した設計にしなければならない。これらの系統は、(1)安全上重要な構成機器の適切な定期検査及び試験の実施可能性、(2)適切な放射線防護遮蔽、(3)適切な格納、閉じ込め、フィルタリング系統、(4)崩壊熱及びその他の残留熱除去機能上の安全重要度を反映した信頼性と試験可能性を備えた残留熱除去性能、(5)事故条件下での燃料貯蔵冷却の大幅な低下を防止する機能、を具備した設計にしなければならない。

62.燃料貯蔵及び取扱系での臨界防止

構成機器の単一故障や単一誤操作が発生しても、物理的な系統設備または運転手順、できれば幾何学的な安全配置により、燃料貯蔵及び取扱系における臨界の発生を防止しなければならない。

63.燃料及び廃棄物の貯蔵設備の監視

燃料貯蔵・放射性廃棄物設備及び関連処理エリアにおいては、(1)残留熱除去能力の喪失及び過度の放射線レベルの上昇をもたらす可能性のある状態を検出し、(2)適切な安全措置を開始させる適切な系統が具備されなければならない。

64.放射線性物質放出の監視

原子炉格納容器内雰囲気、一次冷却材塩・カバーガスの浄化処理設備が設置される場所、液体廃棄物排出経路及び異常な過渡変化を含む通常運転時及び想定される事故時に放出される可能性のある放射性物質に関するプラント周辺環境を監視する手段が具備されなければならない。

(65-69は無し)

[7] 塩の系統と制御

70.中間冷却材系

中間冷却材系が設置され、その中間冷却系が単一の静的障壁によって一次冷却材から隔離されている場合、中間冷却材は一次冷却塩(フッ化物または塩化物)との共存性を有するものでなければならない。一つの障壁が原子炉一次冷却材と中間冷却材とを隔離している場合、漏洩が中間冷却系から原子炉一次冷却系への流れになるよう圧力差が維持されなければならない。ただし、許容可能な他の基準があると確証される場合はこの限りではない。中間冷却材バウンダリは、その漏曳が系統、構造及び機器の安全機能に影響を与える可能性のあるエリアにおいて検査・監視を可能にする設計でなければならない。

71.原子炉冷却材及びカバーガスの純度管理

No.71は、現行の軽水炉の許認可では使用されていない。

72.塩の加熱系統

塩を内包するまたは塩を内包することが要求されている安全上重要な系統や機器に対する要件として、加熱系統が具備されなければならない。これらの加熱系統及びその管理は、構成部品の単一故障や単一誤操作を想定した場合でも、塩成分を含む系統及び機器の温度分布と温度変化率が設計限界内に維持されるよう適切な設計でなければならない。

73.塩の受入れ、貯蔵及び処理系統

塩の受入れ、貯蔵及び処理系統は、安全上重要な系統及び機器の安全機能が損なわれないことを保証する設計にしなければならない。
受入れ、貯蔵及び処理系統は、適切な格納、閉じ込め及びフィルタリングの系統を備え、かつ適切な定期検査及び試験が実施可能な設計にしなければならない。

74.塩の漏洩検出

安全上重要なSSCの機能が維持されることを確保するための要件として、塩の漏洩を検出する手段が具備されなければならない。

75.塩の凍結及び再溶解の対策

塩を内含する安全上重要なSSCは、塩の凍結及び再溶解の際に構造的健全性を失わないよう設計し、製造し、及び試験しなければならない。

(76-79は無し)

[8] その他の設計要件


80.経年管理

施設の設計は、安全上重要な性能構造と機器の経年変化の影響を考慮しなければならない。これについては、構造及び機器の性能健全性が安全解析の想定と確実に一致し続けるよう、検査、試験、保守、交換、状態モニタリング、または経年劣化(腐食、熱疲労、サーマルストライピング、流動励起振動など)に対する設計上の十分な許容レベルに関する規準を含むことができる。

81.人的要因

プラント寿命中において、ヒューマンファクターエンジニアリング(HFE)プログラムが開発され、かつ実行されなければならない。このプログラムは、適切な品質を有する結果を確保するために、HFEの取組みを計画し、HFE要件を策定し、主要な専門知識、一般に認められた最新のHFE原則、実践的な経験から学んだ教訓、一般に認められた検証・確認手順及び試験を統合するものであることが推奨される。HFEプログラムは、次のことを確実にすることが推奨される。(1)人員と自動化の役割が明確に定義され、プラントの信頼性要件と安全性能要件を支援すること、(2)ヒューマンタスク・パフォーマンス要件が明確に特定されること、(3)スタッフの数、その機能及び資格が、十分にスタッフの役割に適合するものであること、(4)作業環境(制御室と現場作業場)、ユーザーインターフェイス(アラーム、ディスプレイ、制御、手順、その他のタスク支援)及び訓練が、タスクパフォーマンス要件を満たし、人の認知特性と心理特性に沿った設計であること、(5)施設の安全性が、人と主要設計特性との相互作用による悪影響を受けないこと。

82.物理的安全保障/防護手段

悪意ある行為から施設を物理的に守ることを設計上考慮しなければならない。施設防護は、設計と運用上の決定との相互影響の考慮など可能な限り最大限まで安全性と安全保障とを統合的に考慮した設計によって実現されなければならない。設計上の考慮事項は以下を含む。
●多層防御の原則に適切な注意を払い、悪意ある行為の発生確率と結果を最小限に抑える設計と配置を使用する。
●制御アクセスを容易化するよう、安全関連の建物及び機器の配置を設計する。
●物理的保護が単一の設計、運用、または物理的なセキュリティ対策に依存することを防ぐために、複数の防護層を具備する。
●悪意ある行為が主要安全機能の作動を妨げないような多重の安全装置を具備し、配置(例:分離)する。
●種々の外的脅威に耐えうるよう十分な構造的健全性を有する障壁を具備する。

83.非常用アクセス

運転員操作を必要とするプラント施設のすべてのエリアは、アクセス可能であり、かつ通常電源及び非常用電源が失われた場合に機能する非常用照明設備を備えなければならない。アクセス経路及び避難経路には明確な標識が設置される。

84.破損燃料検出

No. 84は、現行の軽水炉の許認可では使用されていない。

(85-89は無し)

[9] 追加の設計基準事故

90.全交流動力電源喪失(SBO)

プラント環境(たとえば、蓄電池温度)に対する全交流電源喪失(SBO)の影響、及びそうした事態に対するプラント状態を監視する適切な計測系の具備について考慮しなければならない。
全交流動力電源喪失に対して、(1)格納容器の圧力及び温度を維持する手段、または(2)系統の安全機能喪失を緩和する手段のいずれかが具備されなければならない。格納容器の安全機能の喪失を防止するための許容手段は、全交流動力電源喪失の発生後所定期間内において格納容器設計漏洩率が超過しないようにすることである。これは、追加の除熱が不要であることを示す安全解析によって実証されうる。こうした状況下でプラント状態を監視する適切な計測系の具備を考慮しなければならない。
全交流動力電源喪失の継続時間は、72時間としなければならない。

91.スクラム失敗過渡事象(ATWS)

ATWSに対しては、許容可能な高信頼性を有する一系統の反応度制御系またはATWS事故において過度の容器クリープを生じさせないよう十分な固有の反応度フィードバックが具備されなければならない。ATWS時に原子炉施設のすべての主要なプラントパラメータを監視する適切な計装が具備されなければならない。

92.航空機の衝突

設計には、大型商用航空機の衝突事象が生じた際に、炉心の冷却性が維持され、かつ使用済み燃料の冷却が継続されることを保証する設備及びその性能を組み込まなければならない。

93.過酷事故(SA)

過酷事故は必須要件になりつつある。
広範な炉心損傷や環境への著しいFP放出によって事故がSAに拡大することを防ぐために、多様性及び多重性を有する動的系統と静的設計機能の両方又はいずれかを具備することが推奨される。
プラントの安全系の障害又は故障が発生した場合に事故の過酷度を緩和するため対策や施設をプラント設計に組み込むことが推奨される。格納容器の設計に当たっては、環境への放射性物質の放出を制限するためにSAの結果を緩和する機能の要件について考慮しなければならない。
原子炉施設もまた、技術的・歴史的に無視できないが設計基準を超える過酷度及び発生頻度を持つ地震、竜巻、ハリケーン、火災、洪水、津波及び静振の結果として、放射性物質が早期段階で環境に大量放出されることを防止する設計とすることが推奨される。


[10] いくつかの定義

運転時の異常な過渡変化(AOO):
動的機器の単一故障または単一誤操作により起こり、原子炉施設の寿命中において少なくとも1回は発生することが予想される事象。

スクラム失敗過渡事象(ATWS):
ATWSは「最悪ケース」の事故の1つであり、NRCがこれを考慮して頻繁に規制措置をとる動機となっている。予想される過渡時にスクラム(緊急炉停止)系統が機能しない場合、このような事故が発生する可能性がある。

設計基準を超える事故(BDBA):
BDBAは、起こりうるが、従来の設計プロセスにおいてはその発生可能性が著しく低いと判断されたことにより十分に考慮されなかった事故シーケンスについて検討するための技術的手段の一つとして用いられる。

設計基準事故(DBA):
原子力施設においてそれが起きた場合、公衆衛生と安全を確保するために必要なSSCの機能が喪失することなく、それに耐えうるような設計及び建設にするための想定事故。DBAは、安全関連SSCの性能要件を確立するために用いられる。

全交流動力電源喪失(SBO):
SBOは、原子力発電所の必須及び非必須スイッチギヤ母線への交流電力の完全な喪失を意味する。

過酷事故(SA):
DBAを超え、炉心溶融や原子炉格納容器破損に至る事故。


・・・終わり・・・

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