3.8. 溶融塩炉の経済性について
 経済的:即ち「低電力コスト」であらねば無意味です。その推算には、各炉固有の社会適用時の全要素:即ち立地・付帯作業・施設までを含むインフラストラクチュア全体を評価しなければならず、簡単ではありませんが、これまで解説してきた要素がほとんど全てプラスに効くので、極めて優れた経済性が期待できます。
・固体燃料集合体の製造・検査・輸送・取替え・解体・再処理・再加工・検査・管理などの作業、関連施設が不要となり、炉構造・運転・保守・輸送・化学処理・廃棄物処理などほとんど全てが単純化されます。
・炉寿命の間は炉容器に触れる必要がなく、負荷追随の運転が容易で燃料自給自足型の原発を、十分経済的な小型原発も含めて、立地選定に困難なく全世界に提供できます。安全装置も単純です。
・安全性・核拡散・核テロリズム・核廃棄物などの問題対処に優れています。
・研究開発費およびその期間は極めて僅かで済みます(次章参照)。

MSRの経済性については、多少データが古いが、文献1に示されている。100万Kweのプラントを想定して、軽水炉(LWR)と比較すると、

資本費

MSRが、FBRのような3次系構成で多少複雑になっている要素もあるが、プラント効率が高く、炉内圧力がほぼ常圧で、安全系も簡素化されているので、トータルでは、LWRと同程度とされている。

燃料費、

LWRは大量の天然ウランと濃縮されたU235を必要とするが、MSRは、僅かなトリウムとU233補給を必要とするだけである。また、固体燃料とは異なり、燃料成型加工費が不要なこともあり、燃料サイクル費では、かなり安くなる。

運転保守費

放射能が高い燃料塩が炉心容器外を循環しており、遠隔保守が必要と考えられるが、安全系が簡素化されていること、長期運転が可能なこと等により、米国評価では、LWRよりも安いとしている。

稼働率

MSRは燃料交換が不要で、稼働率はLWRより高いと見込まれるので、発電コスト上、有利である。

以上を総合すると、MSRの経済性は、LWRと少なくとも同程度か安いと思われる。

最近、米国のローレンス国立研究所LLNLが、オークリッジ国立研究所ORNLによるMSRとPWRの発電コスト比較を再評価した。それによると、資本費、運転保守費、燃料費、廃棄物費、解体費の5項目について計算し、MSRの稼働率を90%、PWRの稼働率を80%と想定している。ただし、LLNLの評価はU235を燃料とした変性MSRなので、今回、燃料サイクル費は、U233を燃料とするFUJI炉のデータを使用した。そして、LLNLの結果と合わせると、MSRの発電コストは、PWRより30%安いという結果を得た。

なお、FUJI炉では、LLNLの計算根拠であるMSBRやMSCRと違い、連続化学処理設備を不要としていることにより、上記の結果より更に有利となると思われる。また、黒鉛の寿命がプラント寿命以上であると実証されれば、黒鉛交換設備が不要となり、資本費の改善が可能である。

 

MSR

PWR

資本費(セント/KWH、以下同じ)

2.01

2.07

運転保守費

0.58

1.13

燃料サイクル費

0.11

0.66

廃棄物処理費

0.10

0.10

解体費

0.04

0.07

合計発電コスト

2.84(-30%)

4.03

Ref.1) J. R. Engel et.al, "Conceptual Design Characteristics of a Denatured Molten-Salt Reactor with Once-Through Fueling", ORNL/TM-7207,1980年
    更に詳細な設備毎のコスト計算が下記のORNLのMSBR概念設計書に出ている。
    R. C. Robertson「Conceptual Design Study of a Single-fluid Molten-Salt Breeder Reactor」ORNL-4541、1971年.
Ref.2) R. W. Moir, "Cost of Electricity from Molten Salt Reactors", Nuclear Technology, Vol.138, No.1, P.93-95、2002年.

計算過程について関心のある方は、ここをクリック


以下は、2015年に追記。
最近の軽水炉コストを調べた所、近年の安全性強化要求により、従来の
23倍に高騰しており、発電コストとして、1115/KWhとなっていることが分かりました。
一方、熔融塩炉は津波対策でもある全電源喪失事故への対策などは、既に設計に取り入れてあり、十分な安全性を有しているので、発電コストは余り変わらないと見込まれます。
以下は、2019年に追記。
雑誌「世界」2019年7月号に掲載された各種電源の発電コスト比較です。

The Economics of Nuclear Power (Updated September 2015) World Nuclear Association,
120円/ドルで換算。
Nuclear,-1 1400 MWe (EIA's EPC figure) $5500/kW 90%Load Factor
Nuclear-2, 1400 MWe (NEI suggested EPC figure) $4500-5000/kW 90% Load Factor


以下は2018年に追記。
小型熔融塩炉FUJIの発電コスト
上記の熔融塩炉のコスト評価は100万KWeの場合なので、25万KWeのFUJIの場合を推定してみます。
一般に産業システムは1/2乗則、つまり、4倍の大きさのものは「ルート4分の1」つまりおよそ1/2の製造単価と言われています。
逆に1/4の大きさなら、製造単価は2倍なので、25万KWeのFUJIは、100万KWeFUJIの2倍の単価と推測されます。つまり、資本費が2円/KWhから4円/KWhになるので、合計の発電コストは5円/KWhと見込まれます。(計算を単純化するために、ここでは、1セント=1円、としました)
小型炉は、いわゆるモジュール生産方式が可能で、もう少し安くなるので、4-5円/KWhという所でしょう。

上記の概算による建設費の絶対値(M$)は右記の通りです。
100万KWeFUJI=2000M$とすると、10万KWeFUJI=630M$、
25万KWeFUJI=1000M$、と推測されます。
また、モジュール生産方式を採用すると、これより1-2割、安くなると見込まれます。





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