1流体MSRか、2流体MSRか?

2015年、吉岡律夫

熔融塩炉(MSR)では、Th232が中性子を吸収して、Pa233(プロトアクチニウム)になり、更にこれが半減期27日で最終的にU233という核分裂性物質(燃料)になることが知られています。

所で、米国ORNL(オークリッジ国立研究所)は当初、2流体MSRを提案していました。これは、Pa233が(U233に減衰する以前に)中性子を吸収すると、U233が出来ないで、U234という核分裂しない物質になるからです。即ち、Th232のみのブランケット領域を設け、生成したPa233を原子炉から分離し、U233に減衰するのを待ってから、炉心に戻せば最大の変換効率が得られるはず、と考えたためで、中々良いアイデアでした。
Th232からU233になる経路 米国ORNLの2流体MSR案

このことから逆に「FUJIのような1流体MSRでは、その分、損をしているのではないか?」という疑問があるかも知れません。
実際、米国のMSR宣伝家達は左下のような2流体を前提とする概念図を今でも使っていますし、フランスの高速型MSR(右下)も、同様の設計を提案しています。
米国の宣伝で使われている2流体MSR概念図 フランスの高速型MSR(2流体MSR)


ORNLが2流体MSRを放棄した理由は、炉心領域とブランケット領域の隔壁材料が発見できなかったことと、設計が複雑化するため、と考えられています。

それはさておき、上記のように2流体にする効果はどの程度か、逆に1流体のFUJI設計はどの程度の損をしているか、調べてみました。

評価法1)
時間t秒後に、Pa233がβ崩壊(半減期27日)でU233になる確率は[1−exp(−λt) ]です。
t=27日とすれば、27日後に半分、つまり、Pa233は50%減少します。
(ここで、λ:崩壊定数(=0.693/27/24/60/60))
一方、Pa233が中性子吸収でU234になる確率は[1−exp(−σφt) ]です。
Pa233の中性子吸収断面積σは25バーン(ORIGENコードのTh炉心の値)、
中性子束φ=2x1014、として、
t=27x24x60x60秒とすると、
1−exp(−σφt) = 1−exp(―0.012)= 1-0.9998 = 0.012、
つまり、わずか1%だけ減少している、ということになります。

評価法2)
また、Pa233の中性子吸収がゼロだと、どうなるかを、PWR炉心を対象に、ORIGEN2コードで計算してみました。
燃焼度45GWd/tの時点で、U233生成量への影響は1.1%でした。つまり、Pa233の炉心内での中性子吸収は非常に小さいことがわかります。

以上のように、1流体MSRでは、炉心内でPa233が中性子を吸収することによる損失は、わずか1%程度であることが分かります。

Pa233の分離は、ORNLのMSBRのような1流体の設計においても採用されていました(下記のMSBR概念設計書)。
勿論「Pa233の中性子吸収は1.6%」と記載されていることから、ORNLもPa233の分離による改善はこの程度であることは認識していました。しかし、当時のORNLでは、増殖炉型のMSRを目指しており、高速炉に勝つために、1%でも増殖率を上げたかったのでしょう。
(「Conceptual Design Study of a Single-fluid Molten-Salt Breeder Reactor.」ORNL-4541, 1971年

所で、一般に原発では燃料費の占める割合は発電コストの1-2割で、MSRの場合は更に小さく5%程度です。
(MSRの経済性評価は当NPOの右記頁を参照:http://msr21.fc2web.com/MSReconomy.htm

従って、MSRを2流体設計にした時の経済性の改善効果は、Pa233の分離による効果のみで、それは、燃料費1割の1%として、発電費の1/1000に過ぎません。
一方、2流体にするには、原子炉を2重構造にし、循環ループも2重に必要であり、原発の発電費の大部分を占める設備費への悪影響はかなりのものとなることが予想されます。
結局、2流体MSRの経済性は、FUJIのような1流体MSRに比べると、かなり劣る、と考えられます。

古川和男先生は論文等で「1流体」という事を強調しておられました(例えば下記論文)。我々のような凡人は計算してみて始めて分かるという次第ですが、古川先生は、上記のような結論を直感的に得られたのでしょう。
K.Furukawaほか「A Road Map for the Realization of Global-scale Thorium Breeding Fuel Cycle by Single Molten-fluoride Flow」Energy Conversion and Management, 49, p.1832-1847, 2008年.


なお、ORNLは当初「炉心をうんと小さくして、中性子が沢山漏れるようにし、その周りにブランケットを置けば、FBRと同様のブランケット効果が得られるのではないか」ということで、そういう設計を考えました。

ORNL-2751「Nuclear Characteristics of Spheric Homogeneous Two-region Molten-Fluoride-Salt Reactors」1959年
更に、MSRでは中性子の平均自由行程が(FBRより)短いので、炉心の中にブランケット塩を流す管を多数おいて、燃料塩からの中性子がすぐ隣のブランケット塩に届くような設計も提案しました。
いわゆるFBRの内部ブランケットと呼ばれる設計と同じですが、MSRの場合は「Interlace(織り交ぜ設計)」と称されていて、凄い事を考えたものだと感心します。

ORNL-4528「Two-Fluid Molten Salt Breeder Reactor Design Study」1968年


しかし、いずれの設計も構造が複雑すぎ、かつ、炉内で使用可能な材料は黒鉛だけなので、黒鉛で隔壁やブランケット管を製造することができず、これらの2流体設計は放棄され、最終的にMSBRは1流体設計を採用しました。
但し、MSBRはオンライン再処理を前提としており、Pa233の分離は採用しています。

これらの歴史は、ルブラン先生の下記論文に詳しく書かれており、2013年に英文の教科書を出した際に、引用させて頂きました。。
David LeBlanc「Molten salt reactors: A new beginning for an old idea」2010年(下記に掲載されています)
http://ecolo.org/documents/documents_in_english/MSR-Molten-salt-reactor.pdf

結論として、
1)2流体MSRの経済性は、FUJIのような1流体MSRに比べると、かなり劣る、
2)Pa233の分離による発電費の改善効果は1/1000に過ぎない、

ということです。



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