軽水炉の使用済み核燃料の問題(軽水炉の使用済み核燃料をどうすべきか?)


2015-9-7、吉岡律夫

『軽水炉の使用済み核燃料をどうすべきか?』については、米国プリンストン大のFrank von Hippel先生の提案がありますが、以下に私のコメントをまとめました。

ヒッペル先生は毎年来日し、2014年だったかに、安倍総理に「再処理と高速炉の放棄」を提案し、朝日新聞にもインタビュー記事が載ったように思います。下記が原論文で、ネットに公開されています。私もヒッペル先生には何度かお会いしました。
「Ending reprocessing in Japan: An alternative approach to managing Japan’s spent nuclear fuel and separated plutonium」
http://fissilematerials.org/library/rr12.pdf


ヒッペル先生の提案は「Puは核兵器材料なので利用すべきではない。従って、Puを取り出す再処理は放棄すべきで、その代わりドライキャスクで保管すべき」というものです。


@核燃料の再処理を中止し、使用済み燃料はドライキャスクで保管せよ。

A再処理によって出てくるPuをMOX燃料として軽水炉で再利用する政策(プルサーマル)を放棄せよ。
B再処理工場の負債は国で処理せよ。
C核燃料の再処理は、廃棄物量を大幅に減少させるものではなく、廃棄物処分が容易になることもなく、危険性も減少しない。
D最終処分(地層処分)は、国が責任を持って行うこと。
E日本が既に持つ44トンのPuは最終処分せよ。


日本の核燃料サイクルは既に破綻している(2013年4月22日の朝日新聞社説)のは確かですが、ヒッペル先生の提案も解決になっていません。

@ドライキャスクで数十年保管する案は問題の先送りである。最終的にどうするのか?
A使用済み燃料は、百年程度で放射能が大幅に減少し、人間が容易に近づけるようになるので、テロリストによる盗取を防止できない。誰が10万年も管理するのか?

B再処理をしないので、最終的には使用済み燃料を地層処分することになるが、上記Aのように、人工のPu鉱山を作っていることになる。
Cそもそも、日本に永久処分できる地域がない。日本の国土は数十万年前に形成されたもので、北欧のように数億年の地盤ではない。また、半減期が30年の福島事故汚染土壌でさえ、受け入れに反対が起きている。
D既に生産された数十トンのPuをセラミックに成型する案も、テロ危険性は同じである。
E「再処理をやめる」と宣言した途端、六ヶ所村の三千トンの使用済み燃料が全国50基の原発へ返却され、原発立地県が最終処分場になることが確定してしまう。また、燃料プールが溢れて、原発の再稼動も不可能になる。従って、再処理放棄は選択不可能な案である。


要するに、現状の再処理路線も問題ですが、それをやめても、リスクが減るわけではなく、何の解決案にもなっていない、ということです。

なお、上記反論はヒッペル先生も認識しているはずで、同じ認識からどうして違う結論が出るのか興味深い所ですが、結局、Puのテロ危険性に対し、@未来の方が安全と考えるか、A百年後以降10万年もの間、今より常に安全とは思えない、というどちらを選択するか、ということなのでしょう。

なお、Puの問題点は核兵器だけではなく、粉末化して空中散布すれば、東京は無人街になることです。何しろ、角砂糖1個程のPuで、東京都の全住民が50mSvの被曝をする計算になりますから。
(別紙:プルトニウムの放射性毒性;ダーティボム:放射能散布爆弾

ついでながら、現時点の核テロ危険性に関して、オバマ大統領の「核なき世界」宣言の出発点となった「核の転換点:Nuclear Tipping Point」という映画が、日本語字幕の付いた動画として下記で無料視聴できます(55分)。キッシンジャー氏、パウエル氏など、冷戦時代の闘士だった著名人の話なので、説得力があります。
https://vimeo.com/24132108


結局、この問題は「科学に問うことはできるが、科学が答えることができない問題」つまり米国ワインバーグ博士が提唱した「トランス・サイエンス問題」なのかも知れません。
(別紙:
トランス・サイエンス:Trans-Science(ワインバーグの自伝より) )



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