プルトニウムのもう一つの危険性「ダーティ・ボム」:「放射能散布爆弾」

核テロの一種に、いわゆるダーティボム(放射能散布爆弾)があります。
この危険性は日本では殆ど認識されていませんが、核爆弾と同様に、重要な問題です。
米国議会は2011年に88頁もの報告書を出しています「Dirty Bombs: Technical Background, Attack Prevention and Response」
https://www.hsdl.org/?view&did=9117

また、2016年の核サミットで、オバマ大統領が「ダーティ・ボムに対する危険性」を指摘しました。

左の写真(または下記URL)をクリックすると、動画でオバマ演説の一部が視聴できます。
https://youtu.be/UcWLlbWe4ko
Fortunately, because of our coordinated efforts, no terrorist group has succeeded thus far in obtaining a nuclear weapon or a dirty bomb made of radioactive materials. But we know that al Qaida has long sought nuclear materials.

放射線の人体への影響に関しては、外部被曝と内部被曝があります。内部被曝に関する放射性毒性は、水や食物と一緒に経口摂取した場合よりも、呼吸で吸入した場合の方が高い場合があります。その理由は、放射線の内、アルファ線は飛程が短く、体内に入った場合に影響が大きく現れ、また、肺等に吸入した場合は体外へ排出されにくいからです。

プルトニウム(Pu)はその典型例で、Puの粉末(直径5ミクロン:5x10e-6m)を吸入した時の線量換算係数(DCF)は、ICRP(国際放射線防護委員会)によれば、経口摂取した場合の約100倍の3.2x10e-5 Sv/Bqです。ここで、線量換算係数DCFとは、放射能が1ベクレルの放射性物質を摂取または吸入した時の人体への影響(シーベルト単位の被曝線量)を求める為の係数であり、放射性毒性は次式で計算できます。

[放射性毒性] = DCF x [放射能]

なお、DCFは、物理的な半減期と、人体から排出される生物学的半減期の両方を考慮して定められています。また、成人の場合、50年の余命を想定し、寿命中の影響を考慮しています。所で、幼児は成人より放射線の影響を大きく受けますが、摂取量も少ないため、DCFは通常、成人で代表させることができます。

また、放射能とは、1秒間の物質原子の崩壊数で、崩壊定数λと、原子数Nから決まり、[λ・N]で計算できます。

Pu239について、以下に計算してみました。
 239gのPu239の原子数N=0.623x10e24個(1モルの原子数=アボガドロ数、10の24乗個)
 λ(崩壊定数)は、Pu239の半減期(24,000年)から求められます。
 λ=0.693/(24000x365x24x60x60) = 9.16x10e-13 sec-1
 放射能[λ・N]= 9.16x10e-13 x 0.623x10e24 = 5.71x10e11 ベクレル(または毎秒の崩壊数)
 [放射性毒性] = [3.2x10e-5 Sv/Bq] x [5.7x10e11 Bq] = 1.82 x 10e7 Sv

以上から、239gのPuがあれば、1820万人に平均1Svの被曝をさせられる計算になります。

つまり、角砂糖1個程のPu(PuO2で10g程)を空中散布すれば、76万人に1Svの被曝をさせられる計算になり、東京都の人口(1300万人)で割れば、一人当たり約50mSv(ミリシーベルト)であり、この数字を聞いた途端に東京都民は逃げだし、無人の街となるでしょう。上記の50mSvは余命50年間の影響を示す値なので、年間当りでは一般市民の被曝限度(1mSv)と同程度ですが、一瞬で生涯被曝が確定する訳で、逃げ出すのは当然です。

更に、Puはセシウムのようにガンマ線を殆ど出さないので(★)、散布装置を製造するのが容易で、かつ製造後も検知が殆ど不可能な点も問題です。
また、爆発させる必要さえもありません。つまり「爆弾」でなくても、ドローンなどで空中から散布すれば良い訳です。

(★:セシウムは約1MeVの強いガンマ線を出します。一方、プルトニウム(Pu239等)は、アルファ線を出す時に、ガンマ線も出しますが、セシウムの数十の一の非常に弱いガンマ線です。)

なお、付記すると、死に至る被曝量は数Svとされているので「角砂糖5個分で日本人全員死滅」というネット上の噂は真実ではありませんが、影響が大きいのは確かです。

ICRPによるPu239のDCFデータ (出典:「ICRP PUBLICATION 119」Compendium of Dose Coefficients、2012年、左記をクリックすれば、原典がPDFで見られます。
(Inhalationとは肺に吸入した場合の換算係数で、Ingestionは飲んだ場合の換算係数)
花粉や黄砂とほぼ同じ大きさの直径5ミクロン粒子の他、更に細かい1ミクロン粒子のデータも載っています。



補記:「ダーティ・ボム(放射能散布爆弾)」には、医療用の放射性物質、例えば、コバルト60を盗取して、散布することも含まれます。どちらも放射線を出し、人体に影響を与えますが、その影響は大きく異なります。

i医療用放射線源'(コバルト60など) プルトニウム
放射線の種類 ガンマ線 主にアルファ線
放射線の影響範囲 遠くまで飛ぶ 極めて狭い範囲
被曝の影響 外部被曝 吸入すると内部被曝
製造者への影響 爆弾のようにすると甚大な影響があり、製造が困難。 製造者に放射線の影響が殆ど無い。
盗取等の輸送時の問題 厚い鉛やコンクリートで遮蔽しないと輸送できない。 遮蔽は不要で、輸送は簡単。
検知 ガンマ線を出すので、検知が容易。 アルファ線なので、検知は殆ど不可能

元々、医療用放射線源は、患者1名に影響を与える目的なので、散布してしまうと薄まってしまい、死に至らしめる量を大勢に与えることはできません。
また外部被曝なので、散布されても現場から逃げれば、それ以上の被曝をせずに済みます。

一方、Puによる被曝は、吸入すれば一生被曝することになります。
市販の放射線検知器では検知できないので、逃げるという発想ができないでしょう。
現時点では、分離されたPuは少量で、かつ限定された場所のみに存在するので、盗取は困難に思えます。
しかし、軽水炉の使用済み燃料は、今後、世界中に数十万トンも発生し、それらは100年も経つと強い放射能が減衰し、そのままでダーティ・ボムの材料となります。、




(2015年9月、記事掲載。2017年4月に医療用源との比較を補記。)


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